こちらは「【連載企画】すぐ使えるマーケティング実務ノウハウ20選」の2回目の記事です。
連載企画の概要はこちらをご覧ください。
今回は「マーケティングの進め方と実施項目」について解説していきます。
ベーシックなマーケティングの進め方をニューノーマル対応版としてさらにアップデートさせた内容となっています。
連載1回目での「マーケティングの考え方とニューノーマル対応のチェックポイント」ではマーケティング全体の構造を俯瞰する形でお届けしていますが、今回はマーケティングの進め方について、プロジェクトのスタートから終了までを時系列に解説していく形で解説する形になっています。
連載1回目の記事とあわせてお読みいただくと一層理解が深まるようになっていますので、まだお読みになっていらっしゃらない方は下のリンクからチェックをお願いします。
- この記事の進行キャラクター
- 記事の信頼性
- 読者の悩み
- この記事のメリット
- 【ニューノーマル対応】マーケティングの進め方と実施項目
- 「Reserch 情報収集・調査分析」
- 「Case Study 事例検討」
- 「Insight Benefit 欲求考察」
- 「Hypothesis Examination 仮説検討」
- 「Segmentation セグメンテーション」
- 「Targeting ターゲティング」
- 「Positioning ポジショニング」
- 「Issue 課題の確認」
- 「Concept コンセプト」
- 「Marketing Mix マーケティングミックス」
- 「Marketing Option マーケティングオプション」
- 「Marketing Tactics マーケティング戦術の検討」
- 「Implementation 戦術実施」
- 「Control 戦術管理、成果評価」
- 「Feedback ノウハウのフィードバック」
- 「Effective Use ノウハウの有効活用」
- まとめ
この記事の進行キャラクター
こちらの記事には下の4つのキャラクターが登場してかけ合いやおしゃべりで楽しく進行していきます。
今回は少々長い記事になりますのでとりあえずブックマークしていただくと良いかもしれません。
どうぞよろしくお願いします。
記事の信頼性
この記事は実務経験30年のベテランマーケターで、広告代理店のマーケティング部長を務め、現在はマーケターと工場経営の二刀流で活動している「ももとら」が執筆しています。
広告代理店で若手社員向けのマーケティング研修を担当していましたので、初心者の方にもわかりやすくお伝えできると思います。
読者の悩み
いろいろと副業について考えているサイです。
前回の記事でマーケティングの全体像を学びましたが、具体的な進め方が分からないので教えてくだサイ!!
起業家志望のシカです。
だいぶマーケティングに慣れてきましたが、同じ作業の繰り返しでマンネリ気味です。
新しいアイデアや発想を見つけられるようなノウハウを知りたいです!!
おまかせください。 皆さんのご相談にお応えします。
この記事のメリット
この記事をご覧いただくことで、以下のメリットを体感していただけると思います。
メリット①
幅広いマーケティングの知識とノウハウを持った「できるマーケター」として社内で一目置かれるようになります。
メリット②
マーケティングの具体的な進め方と実施項目を習得することで、会議やディレクション業務などでイニシアチブを発揮することができ、ライバルから一歩抜きんでることができます。
メリット③
この記事で習得したマーケティングノウハウを実務で活かすことで、あなたはチームの中心的存在になれるでしょう。
そして業務を能動的に動かしていくポジションになることで、仕事がクリエーティブでやりがいのあるモノに変化していくでしょう。
【ニューノーマル対応】マーケティングの進め方と実施項目
それでは具体的に解説していきます。
まずは下のチャートをご覧ください。
こちらはマーケティングの進め方と実施項目を1枚に整理したものです。
まず、チャートの見方を解説します。
横軸はマーケティングのプロセスを表しています。
マーケティングで提供していく価値を選択するプロセスが「マーケティング戦略」。
そしてマーケティング戦略で決定した価値をどのように提供していくかを計画するのが「マーケティング戦術」です。
「マーケティング戦略」と「マーケティング戦術」、前回の記事で学習した内容ですね。
ここで少し前回の振り返りをしておきましょう。
前回の振り返り
マーケティング戦略は企業の経営戦略の一部として、企業の中の様々な組織と連携しながら、企業のCI(コーポレートアイデンティティ)マネージメント、商品やサービスの企画開発とそのブランドマネジメント、営業や顧客接点のマネージメント、販売、物流、広告活動、アフターサービスなどの戦略や戦術を計画して実行することでした。
マーケティング戦略では「商品・サービス」「価格」「売場」「売り方」「データ」の主に5つの要素を検討して組み立てていくということでしたよね。
そうですね。次にマーケティング戦術はマーケティング戦略で決定した「価値」をどう提供するか「実行計画」に展開し、「計画の実行」「進捗管理」「効果測定と評価」「計画の見直しなど」を一貫して実施していくことでしたね。
マーケティング戦術にはWebマーケティング、デジタルマーケティング、コンテンツマーケティング、SNSマーケティングなどのいろんな戦術があることを学びました。
ばっちりですね。
それではまず縦軸の説明をします。
縦軸には、マーケティングのプロセス別に、マーケティングを進めていく際に実施する項目をプロットしています。
実施項目にはオレンジのカードとグリーンのカードの二種類がありますね。
まずオレンジのカードはこれまでマーケティングの基本的な実施項目として、マーケティングの専門家や研究者が提唱してきたものです。
私が敬愛するマーケティングの大家「フィリップ・コトラー」も「R-STP-MM-IC」というフレームワークでマーケティングの手順について提唱しています。
R=Reserch
➡情報収集・調査分析STP=Segmentation、Target、Positioning
➡市場細分化、ターゲティング、ポジショニングMM=Marketing Mix
➡マーケティングミックス 4P+データ、マーケティング実行戦略I=Implementation
➡計画の実施C=Control
➡計画の管理
この「R-STP-MM-IC」に加えて、今回はマーケティングの実務で活用してきた実践的な実施項目を提案していきます。
チャートではグリーンのカードで表しており、具体的には以下の内容になります。
- Reserchの情報収集・調査分析に加えて、
「CaceStudy=事例検討、Insight・Benefit=欲求考察、Hypothesis Testing=仮説検討」 - STPのセグメンテーション、ターゲット、ポジショニングに加えて、
「Issue=課題、Concept=コンセプト」 - MMのマーケティングミックスに加えて、
「Marketing Option=競合対抗・想定外対応、Marketing Tactics=マーケティング戦術の検討」 - Control=管理に加えて、
「Feedback=ノウハウのフィードバック、Effective Use=ノウハウの有効活用」
たくさんありますね。
はい。これまでのマーケティング実務で経験した「これはやっておくべき」という実施内容をピックアップしています。
全部で16項目になりますが、すべて実務で役立ってきたものですから、自信を持っておススメします。
「Reserch 情報収集・調査分析」
「Reserch 情報収集・調査分析」は一言で言うと「マーケティング戦略の立案に使用する情報を収集、加工、分析し、戦略設計で活用できるレベルに仕上げること」となります。
扱う情報は、マーケティングの6つの構成要素の「自社動向、社会動向、市場動向、産業動向、生活者の意識・行動、競合動向、テクノロジー動向」などが対象となります。
「情報収集」
- デスクトップリサーチ、SNSリサーチ
テーマに関与性が高い「キーワード」を検索して必要な情報を収集していきます。
コツは「情報収集にかける時間を決めてから実施することです。キリがありませんから。」
これは初心者の私でも対応できそうですね。 - 「文献収集」
メディアの報道情報、専門紙(誌)、業界紙(誌)の専門性の高い情報は、経験上、かなり頻繁に使われます。
会社で定期購読している新聞や雑誌は限られているので、調べられる文献にも限界があるんですよね。
そんな時に便利なサービスがありますよ。 - 「マーケティングデータベースの情報収集代行サービス」
私が広告代理店で実務をしていた時にとても重宝したのが「マーケティングデータベースの情報収集代行サービス」です。
専門の情報コンサルタントがマーケティング情報の収集を有料で代行してくれて、調べてたいテーマと内容を伝えると数日後に調査結果を納品してくれます。
ネット上の情報はもちろん、メディア、専門紙誌、雑誌、各種文献と幅広い情報ソースを対象に調べてくれます。
ちなみに私がお世話になっていたのは以下のサービスです。
また情報収集については別の記事でも紹介しています。
こちらはニューノーマル対応の情報収集に特化した記事です。
ぜひご覧ください。
「マーケティング調査」
インターネット、文献、マーケティングデータベースで必要な情報が収集できればよいのですが、収集できない場合は「調査」するしかありません。
まずはマーケティング調査の主なモノを紹介します。
- 定量調査(各種アンケート調査)
インターネット(PC/スマホ)アンケート、郵送アンケート、会場アンケート。
対象者の意識や行動のボリュームや割合を把握することができます。 - 定性調査(各種インタビュー)
フォーカスグループインタビュー、デプスインタビュー、オンラインインタビュー。
対象者の意識や行動の深層心理を把握することができます。 - ビッグデータ調査
携帯電話基地局情報やモバイルアプリ位置情報などを活用した行動調査。
対象エリアの人流などのボリュームや割合を正確に把握することができます。 - トラッキング調査
Webサイトの閲覧データを活用したサイトトラッキング、アイトラッキングカメラを活用したアイトラッキング調査、店頭に設置した監視カメラによる店頭行動調査。
対象者の行動を視覚化し、正確に把握することができます。 - SNS調査
ソーシャルリスニング、クチコミ分析、オンラインコミュニティ、テキストマイニング。
SNS利用者にフォーカスしてその意識や行動を正確に把握することができます。 - フィールド調査
観察スタッフによるミステリーショッパー調査、店頭演出調査、イベント観察調査。
調査対象の特徴などをわかりやすく視覚的に把握することができます。
いろんな調査方法があるんですね。
他にもたくさんの調査方法があります。
ここでは「主な調査方法としてどんなものがあるか」ということをご理解いただければ大丈夫です。
調査はその目的に応じて各々の調査方法のメリットとデメリットを検討し、最も適切な調査方法を選択して実行します。
それぞれの具体的な調査方法やメリットとデメリットについては、また別の記事で紹介させていただきます。
「分析」
「情報収集」そして「マーケティング調査」と必要な情報を集めてきたわけですが、情報は加工されていないそのままの状態ではマーケティング戦略に活用できません。
情報を扱いやすい状態に加工(解析)して、その情報が意味するところや示唆するところを明快にあぶり出し、共通言語として整えることが「分析」です。
ここでは主な分析方法について紹介したいと思います。
- PEST分析
マーケティングの対象をとりまく外部環境(マクロ環境とも呼びます)が、現時点または将来わたってどのような影響を与えるのかについて分析する方法で、「Politics(政治)」「E= Economy(経済)」「S=Society(社会)」「T=Technology(技術)」という4つの視点から分析するため「PEST」分析という名前で呼ばれています。
大局的な視点から、どの市場にどのように参入すべきか、そして将来予測される事態にどう備えるべきか検討することができます。 - 3C分析
マーケティングの対象について「C=Customer(顧客)」「C=Competitor(競合)」「C=Company(自社)」の3つのCの視点から、市場でどのようなポジションで、どのぐらいの競争力を持つのかを整理する方法です。
3C分析を通して自分の優位性や弱点が明きらかになり「市場における有利なポジション」「競合との差異化点」「取り組むべき課題」を明確にすることができます。 - 5フォース分析
マーケティングの対象について「業界内の脅威」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」の5つの要素について検討することで業界を取り巻く状況や売り手と買い手の関係性について整理する方法です。
5フォース分析を通して参入する業界の収益性や脅威となるモノが明確になり、マーケティング戦略上「攻める」か「守る」または「縮小」するかという判断を論理的に検討することができます。 - SWOT分析
マーケティングの対象の「S=Strength(強み)」「W=Weakness(弱み)」「O=Opportunity(機会)」「T=Thread(脅威)」のそれぞれを掘り下げ、競合、法律、市場トレンドなどの外部環境と、自分のブランド力、価格、提供品質などの内部環境について、それらのプラス面マイナス面を整理し現状を論理的に把握します。
SWOT分析を通して、市場で戦うための現状の武器と問題点、市場の将来像と有利に戦うための仮説を導き出すことができます。
各種データ分析
こちらはアンケートやビックデータなど定量的な情報の分析について主なモノを紹介していきます。
専門的な解説となるととても長くなりますのでどのようなモノがあるのかというレベルで紹介していきます。
- 「クロス集計分析」
アンケートなどの解答に回答者の属性情報などを交えて(クロスさせて)集計する分析方法で属性別の傾向や特徴を把握することができます。 - 「クラスター分析」
多様な性質が混在している調査の対象者群からある特定の性質を持つグループ(クラスター)を作ってそれぞれのグループの性質を分析する方法で、クラスター別の傾向や特徴を把握することができます。 - 「アソシエーション分析」
購買パターンや購買履歴などのデータから、生活者の購買行動の関連性を見つけ出す分析方法です。
同時に買われる商品の組み合わせや売れる商品と売れない商品の傾向を導き出すことができます。
ちょっと難しいかなぁ。
ここではザックリと理解しておけば大丈夫ですよ。
実際の実務のシーンでは調査や分析は調査会社に業務委託することがほとんどで、難しいことは専門家のリサーチャーがフォローしてくれます。 リサーチャーと一緒に仕事を進めていくにしても、調査方法の名前と概要ぐらいは頭に入れておきたいですよね。 実際、調査や分析は仮説を作って調査対象者のサンプリングをし、質問票を作り、データを集計・解析していくというプロセスを体験しないと実感を持って理解することは難しい領域だと思います。
なるほど、習うより慣れろですね。
この世界は得に奥が深くて難しく感じることが多いので、別の記事でわかりやすく解説したいと思います。
「Case Study 事例検討」
こちらは情報収集の一部ですが、経験上、マーケティング実務の中で登場頻度が高いモノなので、あえて取り上げています。
事例って、そんなに大切なんですか?
そうですね。特に日本の大企業は他社事例が大好物です。
「あの企業はこんな時にこうやって成功した。」とか「海外ではこんな時こうやっている。」という情報が社内のエスカレーションや提案に活用されているからだと思います。
なんだ。社内説明用ですか?
とは言え、事例を検討することは提案する相手にも喜ばれますし、我々マーケターの勉強にもなりますので、ぜひ紹介させていただきます。
事例の収集と検討のポイント
情報の収集方法は前ので紹介した内容とほぼ同じなので割愛します。
ポイントとして重要なのは「どのような種類の事例が役立つか」ということです。
クライアント喜ばれる事例は以下の4つです。
クライアントに喜ばれる4つの事例
- ライバル企業、商品の広告出稿、店頭演出、プロモーション、ユーザーレビュー
- 異業種企業、商品のブランディング、広告出稿、プロモーション
- 業界リーディング企業、No.1商品のブランディング、広告出稿、プロモーション
- マーケティング戦略、戦術、プロモーション施策の成功事例、失敗事例
これらからマーケティング活動の「お手本」「成功法則」「やってはいけないこと」などのエッセンスを抽出し、「良いとこ取り」して、マーケティング戦略や戦術のプランニングに活用されることが多いですね。
「Insight Benefit 欲求考察」
生活者の意識と行動を深く正しく把握するために必要な視点が「Insight インサイト(深層心理」と「Benefit ベネフィット(顧客便益)」です。
これもまた難しそうですね。
インサイトとかベネフィットとか、言い方がアカデミックで取っ付きにくいかもしれませんね。
わかりやすく解説しますから大丈夫ですよ。
Insight インサイト(深層心理)
- 生活者自身は気づいていないがそれに気づくとある行動につながる「きっかけ」のような心の奥にある気持ちのことです。
「心の奥から意識にはたらきかけて行動の起点となる、新しい気付きやメッセージ」と言っても良いでしょう。
インサイトの事例
洗濯物の取り込む際に、無意識に服のニオイを嗅ぐ主婦の行動から発見したインサイトの事例
- 主婦が洗濯に求めているのは「服に染み付いたニオイまで取れる強い洗浄力」
- インサイトは「染みついたニオイまで取れる洗浄力」
- このインサイトから開発された商品=ライオン「ナノックス」
あ、この話、テレビでよくコマーシャルを見ますね。
ニオイについてアピールしていたのはそういう背景があったからなんですね。
Benefit ベネフィット(顧客便益)
- 生活者が商品やサービスを購入する際に期待する「その商品がもたらしてくれる利益、満足、成果と体験」
ベネフィットの事例
「ドリルを売りたければ穴を売れ」の話
- ドリルを購入するその人が欲しいのは「かんたんにキレイな穴が開けられる」という成果と満足(ベネフィット)であり、結果的に、いろんな工具がある中でその成果と満足(ベネフィット)を実現する機能を持ったドリルという電動工具が選ばれる。
ドリルの話は聞いたことがあります。
確かにそうですよね。
インサイトとベネフィットを見つけ出すには、ひたすら生活者に寄り添って、その意識と行動を研究(現場を見る、仮説を立てる、調査して検証する)するしかありません。
主な調査分析方法は前に解説したモノと重複するので割愛しますが、調査ではインサイトやベネフィットを検証しつつ、それのしっかりしたエビデンスやファクト(科学的証拠・事実)を導き出すことが重要です。
エビデンスやファクトは、次の「Hypothesis Examination 仮説検討」で活躍することになります。
「Hypothesis Examination 仮説検討」
ここまでマーケティング戦略に活用する様々な情報を収集・加工・分析してきました。ここからはマーケティング戦略のプランニングに入っていきます。
いよいよプランニングですね。 有名なSTPですか?
その前に仮説を立ててチームでディスカッションしてみましょう。
情報の捉え方には人それぞれ違いがありますから、その違いを有効活用しましょう。
メンバーでマーケティングの仮説を出し合って、着眼点や考え方の幅を確保するタスクが「Hypothesis Examination 仮説検討」です。
三人集まれば文殊の知恵ってやつですね。
まず、メンバーそれぞれが持っている「仮説の種」や「マーケティング戦略の考え方」「アイデア」を1枚のフォーマットに落とし込みます。
以下は仮説立案フォーマットのサンプルです。
書式は自由ですから使いやすいモノに加工しましょう。
また、仮説の立案では次の3つの注意点を頭に入れて進めるようにしてください。
仮説立案3つの注意点
- 新規性、独自性のある仮説を考える。
- 具体的な戦術につながる仮説を考える。
- ある程度現実的(実現可能)な仮説を考える。
仮説立案フォーマットを作成したら、次はどうすればよいですかね?
はい。次はメンバー各々が仮説立案フォーマットを持ち寄って、ブレインストーミングを何回か開催しながら、プランのブラッシュアップや、ある程度の取捨選択(重複排除程度)を実施していきます。
ここで新たなアイデアを盛り込んでも構いません。
複数のプランを全員が共有し、協力しながらそれぞれの案をブラッシュアップしていくことで、たいていは戦略ストーリーが絞られて、戦術の幅が拡がるといった結果が得られます。
うまくストーリーがまとまると良いですけど、そうもいかない場合もありますよね?
意見が割れるようであれば、無理にまとめずに複数案を同時並行で検討していっても良いでしょう。また、時間や予算が許すのであれば、絞り込んだ仮説を検証してみるのも良いでしょう。
仮説の価値の受容度調査やテストマーケティングなどを実施することで、意思決定が明快になったり、新たな発見が見つかるといういうこともあります。
なるほど。
こうやって進めることでチーム全体の情報や知恵を共有できるとともに、次のステップに向けて意識統一ができるんですね。
まさに「仮説検証」ですね。次から「STP」「課題や目標の設定」「コンセプト」と、具体的に価値を規定していくプロセスに入りますので、その前に十分な情報を出し合い、十分な議論をすることが重要なんです。
「Segmentation セグメンテーション」
「Segmentation セグメンテーション」は、市場で受容性が高い(受け入れられやすい)部分(グループ)を見つけることです。
下の図のようにセグメンテーションには主な5つの軸があります。
このように市場をセグメント(細分化)していくわけですが、市場セグメントにおける3つのチェックポイントがありますので以下に紹介しておきます。
「市場セグメントにおける3つのチェックポイント」
- 市場規模が測定できること
市場規模が測定できなければシミュレーションもできませんから計画自体が立てられないことになります。 - そのセグメントにリーチ(到達)できること
その市場セグメントへのリーチ手段がなければ、リーチできる他のセグメントを探すしかありません。 - 投資に見合う市場規模があること
市場セグメントはマーケティング経費を含め十分に利益が取れる市場規模がなければ商売になりません。
「Targeting ターゲティング」
ターゲティングはセグメント(細分化)した市場の中で、攻略すべき「顧客」を選定することです。
具体的には「商品・サービスのに魅力を感じて実際に購入していただけるお客さま」を特定していくことです。
ターゲティングにもセグメンテーションと同様にチェックポイントがあります。
「ターゲティングにおける6つのチェックポイント」
- ターゲットのボリューム規模が適切であること
大きい規模だと強力なライバルが多く、小さい規模だとと採算が合わないなどがあるので適切なサイズのボリューム規模を選定しましょう。 - 競合状況が熾烈でないこと
競合状況は必ず把握しておきましょう。
あまりにライバルが多かったり、適わない相手だったりすると成功する確率が低くなります。 - 到達の可能性があること
商品やサービスがターゲットに物理的に妥当な条件で届けることができなくては意味がありません。
また、ターゲットから好意的に受け入れられるという点も注意が必要です。 - 成長性があること
そのターゲットを選択することで、商品の販売数や利益が成長するかどうかは重要な視点です。
現在は小さなボリュームでも将来的に大きく成長が望める市場であれば、そこをターゲットにする意味は大いにあると言えます。 - 波及効果が見込めること
SNSで話題が拡散(バズる)したり、メディアに取り上げられたりするような影響力のあるターゲットを選ぶことも重要です。
若者などのインフルエンサー層やトレンドリーダー層をターゲットに選定する企業が多いのはこの波及効果を期待してのことでしょう。 - 測定可能であること
戦術や施策の効果測定と評価ができることも重要です。
実施結果が分からない施策は採用されることはまずありません。
こうして選定したターゲットについて、よりリアリティを持たせるために「ペルソナ設定」という方法があります。
「ペルソナ」は商品・サービスにおける「典型的なユーザー像」として、実際にその人が実在するかのように、年齢、性別、住所、家族構成、職業、役職、年収、趣味、価値観、ライフスタイルなどのリアリティを持たせる情報を調査などであぶり出して人物像を設定ししたものです。
「ターゲットとペルソナの比較」
- ターゲット
20代〜30代、男性、ビジネスマン、ゴルフ好き - ペルソナ
山田太郎
29歳、都内大手企業のビジネスマン、首都圏郊外在住、賃貸マンションに一人暮らし
外車を所有、ゴルフ、温泉、ドライブ、ご当地ラーメンめぐりが趣味Instagram、Facebook、LINEを活用
いかがでしょうか。よりリアリティが持てますよね。
「ゴルフ×ラーメン」のコンテンツをSNSで発信すると良いんじゃないでしょうか?
いいですね!ターゲットの情報だけではそのアイデアは思いつきませんよね。
「Positioning ポジショニング」
ポジショニングとは言葉の通り「生活者の商品などのカテゴリーの認識の中において、他社の商品とは違う独自な商品のポジション(立ち位置)をつくること」を意味します。
具体的には、独自の立ち位置とは、他社の商品と差異化された独自の強み(品質、価格、機能など)や他社の商品にはない魅力(ブランド、SDGsへの貢献など)によって、生活者が感じ取る心理的な市場の中の位置のことです。
もっとわかりやすく言うと「他の商品にない〇〇な魅力があるからこの商品を購入したい」と思わせる「○○」がその商品のポジショニングなのです。
ポジショニングを決定していく際にもチェックポイントがあります。
「ポジショニングにおける4つのチェックポイント」
- そのポジションで狙えるターゲットのボリューム規模が適切であること。
狙ったポジションで利益を確保するのに十分なボリュームのターゲットをカバーできるかをチェックしましょう。 - そのポジションがターゲットに正しく認識されること。
ターゲットがそのポジション(強みと魅力)について、正確に理解でき、他の商品と混同しなかについてチェックしましょう。 - そのポジションにターゲットが共感すること。
ターゲットがそのポジション(強みと魅力)について、好意的に受け止め、強い購入意向を持つことができるかをチェックしましょう。 - そのポジションが企業ポリシーとマッチすること。
狙ったポジションが企業ポリシー(経営理念やブランドイメージなど)から見て違和感を感じさせたり、マイナスにはたらくことがないかについてチェックしましょう。
確かに、他社の商品と違うポジションを見つけても、ターゲットに理解してもらえなかったり、反感を持たれたりしたら逆効果ですもんね。
冒頭チャートの右側はポジショニングマップのサンプルです。
縦軸と横軸はケースバイケースで任意に設定します。
ここでは、単品売りからセット販売に移行しつつある市場(仮定)において、プライスリーダーB社とオールラウンダーC社に対抗して、富裕層ターゲットにフォーカスして、高級パッケージ商品で対抗するA社の高級バラエティ戦略を表しています。
なるほど、ポジショニングマップで図式するとわかりやすいですね。
「Issue 課題の確認」
STPと並行して確認するべきモノが「課題の確認」です。
課題の確認はマーケティング戦略そのものを迷走させないために実施します。
特に大企業やワンマン企業あるあるですが、最終プレゼンまできて「そもそも課題が違うんじゃないか」とテーブルをひっくり返す輩は確実に存在します。
・・・・。
意思決定キーマンのネゴシエーションも含めて、マーケティング戦略が担うべき課題の確認と共有はやっておくに越したことはないでしょう。
課題の確認は以下の4つの方法で実施すると論理的に整理できます。
Issue 課題確認の4つの方法
- As is/To be
まず、As is(現状)を洗い出します。
次に、To be(理想)となる状況をを洗い出します。
そして、As is(現状)とTo be(理想)を比較して、未達成事項をピックアップします。 - 6W2H
As is/To beであぶり出した未達成事項の状況の確認と解決策について、Who(誰が)、Whom(誰に)、What(何を)、When(いつ)、Where(どこで)、Why(なぜ)、How(どのように)、How much(いくらで)の視点で検討します。 - コントロール可能/不可能
上記で検討した未達成事項について、現時点でコントロール可能か不可能かを再確認し、実現可能な取り組み事項と、将来的に取り組むべき項目に分類します。 - 緊急度、重要度
取り組む事項について「緊急度と重要度」の観点から優先順位を付け、「緊急度が高く重要が高い」ものを重点課題として設定します。
なるほど、頭の中でなんとなく認識していることを「課題として可視化し、優先順位付けする」ことで、意思決定のキーマンに対して、そのマーケティング戦略の必要性を論理的に示して納得させるということですね。
そうですね。 また、自分たちが進めているSTPを振り返って、それが本当に正しいのか再確認することもできますよね。
「Concept コンセプト」
STPと課題の確認を経て、そのマーケティング戦略で提供していく価値が明らかになってきたら、「提供していく価値とそれが目指す状態」を関与するメンバー全員が理解し共感できる「わかりやすい共通言語」に加工しましょう。
それがコンセプト(提供する価値の実体像、考え方、在り方)です。
具体的には文章、画像や動画などの情報で表現されますが、多いのはフレーズやコピーでしょう。
コンセプトの事例
- 「ヘアカット10分1,000円」 QBハウス
- 「エコテックス規格100 低価格で高品質なベビー服」 UNIQLO
- 「吸引力が変わらない、ただひとつの掃除機」 ダイソン
- 「魔法の国のようなテーマパーク」 東京ディズニーリゾート
コンセプトには「事業コンセプト」「マーケティングコンセプト」「商品コンセプト」「店舗コンセプト」「プロモーションコンセプト」「デザインコンセプト」など、提供する価値の対象によって様々な呼び方があります。
ここでコンセプトの書き方についてかんたんなコツを紹介しましょう。
コンセプトの書き方(4つのコツ)
- 4つの情報要素を活用する。
まず、以下の4つの情報要素を活用することで、コンセプトで伝えたい概念や特徴がより具体的になります。
・名詞(価値の実体)
・形容詞(価値の様子・価値が与える感情)
・数字(価値のレベル)
・権威/エビデンス(価値の証拠) - そのマーケティング戦略ならではの「独自の切り口」にこだわる。
コンセプトは言葉遊びではなく、いかに「独自の切り口」を生み出すかが重要です。
・切り開く「未来、時代」
・解決される「不足、不便、不自由、不満、不安」
・ターゲットの「意識、思考、反応、行動」
・その他独自に発想した切り口「サプライズ」があること。 - 新しさ、ユニーク、意外性など。
- わかりやすいこと。
かんたん、見やすい、聞きやすい、具体的など。
まずは、いろんなコンセプト案を「たくさん書いてみる」と良いと思います。
習うより慣れろですね。
そして、ブレーンストーミングなどでいろんな切り口や表現を検討してみて、磨きをかけていくことが大切だと思います。
「Marketing Mix マーケティングミックス」
ここから「マーケティング戦術(価値の提供)」のプロセスに入ります。
最初に「Marketing Mix マーケティングミックス」です。
マーケティングミックスは各種環境分析、STP、課題設定と検討し決定してきた価値をターゲットに提供していくための「実行戦略」のことで、提供者側の視点からアプローチする「4P」と、ターゲットである生活者側の視点からアプローチする「4C」、そしてニューノーマル時代およびデジタル環境に対応していくための「データ」を組み合わせで設計していきます。
まず「4P」「4C」「データ」をかんたんに解説していきますね。
「4P」
- Product(商品・サービス)
機能、品質、商品デザイン、商品名、パッケージデザイン、ラインナップ - Price(プライシング)
販売価格、料金プラン、決済方法、割引サービス - Place(流通)
販売業態(ECサイト、通信販売、店舗)、流通経路(直販、フランチャイズ、代理店) - Promotion(広告販促)
企業側から顧客への宣伝、販売促進、ブランディング(キャラクター、デザイン)などの活動
「4C」
- Customer Value(顧客価値)
ベネフィット、メリット、解決できる悩み。 - Cost(顧客にとっての経費)
商品・サービスの購入価格、購入するために負担する手間と時間。 - Convenience(顧客利便性)
顧客が商品・サービスと、それに付随する情報の入手や手配のしやすさ。 - Communication(顧客とのコミュニケーション)
顧客側から企業・流通。商品・サービスへ接触するためのアプローチやコミュニケーションの手段。
「データ」
- 顧客、流通、プロモーション、従業員などから入手する情報。
広告出稿、サイトアクセス、SNS、ユーザーレビュー、店舗人流データ、POSやCVなどの実売データ、CRMデータ、顧客情報など。
あの・・・ドドドっと来ましたが、これらの情報をどうやってミックスしたら良いのでしょうか?
大丈夫ですよ。
こちらでマーケティングミックスの事例を考察しながら、その組み立て方を見てみましょう。
下の図は大手家具・生活雑貨メーカー「ニトリ」の「お、ねだん以上。」を実現したマーケティングミックスを1枚のチャートにしたものです。
少々、細かいのですが、「4P」「4C」「Data」の関連性を読み取ってみてください。
なお、このチャートは一般公開されている記事や文献をベースにマーケティングの学習用として独自に作成したものなので一部想定で記載しているところがあります。
あらかじめご了承ください。
「お、ねだん以上。」知ってます。有名ですよね。
注目するべきポイントはすべてのマーケティング活動に「お、ねだん以上。」のコンセプト(価値の理念とも言えますね)が背骨としてしっかり組み込まれていて、すべての「実行計画」にコンセプトを実現するための施策が盛り込まれているところですね。
なるほど、これは見事ですね。
「Marketing Option マーケティングオプション」
マーケティングミックスで「実行計画」が固まってきたら、次は具体的な戦術計画の検討に進みますがここで一工夫しましょう。
一工夫のポイントは「あらかじめ考えられる事態に対するシナリオを備えとして持っておく」ということです。
通常はそのまま基本戦術を検討していきますが、ニューノーマル時代においては基本戦術が思惑通りに行かないことや、まるで想定外の事態に見舞われてしまうことも頭の片隅に入れておかねばなりません。
具体的には、以下のように基本戦術以外のオプションプランも検討していこうということです。
「検討するべきマーケティング戦術の方向性」
- 基本戦術ベーシックプラン
マーケティング戦略およびマーケティングミックスで検討した通りにシナリオが進行する場合の戦術。 - オプションA 競合対抗プラン
こちらが仕掛けた戦術に対して、競合が想定外の反撃を実施した場合、もしくはこちらの基本戦術とタイミングを同時にして、競合が戦術を仕掛けてきた場合の対抗策です。
具体的には「プライシングの強化」や「購入特典の追加」など、ターゲットの直接利益となる部分を強化するプランを隠し玉として用意しておくことなどが考えられます。 - オプションB 早期撤収プラン
こちらは想定外の事態が起きた場合の対策です。
東日本大震災などの大型災害や、今回のコロナ禍など、私達は、突然、想定外の事態に見舞われることを経験してきました。
社会的な混乱に陥った時に、その情勢に見合わない企業活動はマイナス効果をもたらします。
また、突然、撤退することになった場合を想定せずに突き進み、何の準備もしていなければ、現場を含めて企業は大混乱を招くことになります。
早期撤収において「損切り」するべきはどこまでかについて想定のシナリオも考えておきましょう。
「Marketing Tactics マーケティング戦術の検討」
基本戦術ベーシックプランとオプションの方向性が固まったら、いよいよ具体的なマーケティング戦術を構築していきます。
経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)、これまで練ってきた課題とマーケティング戦略を踏まえ、最適なマーケティング戦術を選択・組み合わせてください。
主なマーケティング戦術のラインナップについては以下の記事でも紹介していますので、あわせてご覧いただければと思います。
ここでマーケティング戦術の検討と選択についてちょっとしたコツをご紹介します。
それは、「専門家のノウハウや知恵を調達・活用する」こと。
具体的には企画コンペです。
原則的にマーケティング戦略はそのビジネスの当事者が検討して組み立てるべきですが、専門性が極めて高いようなマーケティング戦術やソリューションなどは、それを専門に取り扱っている「コンサルティングファーム」や「広告代理店」などに提案を依頼し、選考基準をクリアするプランを調達する方法がベターな場合もあります。
企画コンペの進め方
- 「事前準備」
まずは提案を依頼したい「コンサルティングファーム」や「広告代理店」に事前ヒアリングを実施し企画コンペの参加を打診します。
また、社内チームがコンペに参加する場合はその旨を事前に公表しておく必要があります。
この際に「契約条件」「提案費用の有無」「部分発注が認められるか」「社内チームとの連携する際の条件」などを事前に確認し、双方の合意の下で「オリエンテーションペーパー」「選考方法と基準」「契約内容」を事前に提示します。
これらはコンペ参加者に対する公平性を確保するため、同一でなくればなりません。 - 「オリエンテーション」
オリエンテーションは同じ日時かつ同じ場所にコンペ参加者に集合してもらい、同じ説明と質疑応答を実施するようにしましょう。
オリエンテーションペーパーに記載する項目としては以下が一般的ですが、オリエンテーションの内容にあわせてカスタマイズしてもよいでしょう。
オリエンテーションペーパーの記載項目
- オリエンテーションのテーマ、概要
- 課題、目標
- 市場、4P、顧客、競合などの状況
- 提案内容に対する条件と要望
- 契約内容(形態、金額、期間、免責)
- プレゼンテーション日時
「プレゼンテーション・評価」
企画コンペ参加者からプレゼンテーション(提案)を受けます。
プレゼンテーションは内容によりますが、オリエンテーション実施の2週間後ぐらいを目安に実施することが多いでしょう。
プレゼンテーションの実施日は公平性を確保して同じ日で実施し、順番はオリエンテーションの後にくじ引きで決定することが多いです。
プレゼンテーションを受けるメンバーにはあらかじめプレゼンテーションの評価シートを配布して、個々、採点してもらい、プレゼンテーション終了後に回収、集計を実施して最上位の企業を採用します。
評価項目は以下の10項目が標準的ですが、オリエンテーション内容にあわせてカスタマイズしても良いでしょう。
プレゼンテーションの評価項目
- 課題・目標の理解度
- 市場・ターゲットの理解度
- 商品・サービスの理解度
- 課題・目標達成の実現可能性の高さ
- オリジナリティの高さ
- 新規性・ユニーク性の高さ
- コストパフォーマンス性の高さ
- 実施体制の信用性の高さ
- プロジェクト管理(品質・スケジュール)
- 契約遵守・コンプライアンス
評価の採点は5段階評価が一般的です。
「契約」
プレゼンテーションの評価において最上位となった企業の採用に関する経営層の決裁を経て晴れて契約となります。
契約は業務委託契約が一般的です。
「企画コンペのメリット・デメリット」
企画コンペは比較的大型予算のプロジェクトで実施されることが多く、そのメリットとして、実施内容のクオリティやパフォーマンスのレベルも非常に高いものが期待できることが特徴です。
ただし、提案先によっては、まるでコスト感があわなかっかったり、提案された内容の変更や調整に条件が付いたりなどのデメリットも存在しますので注意が必要です。
その道のプロのノウハウや知恵が活用できるのは手っ取り早くて良いですね。
そうですね。
でも企画コンペを開催したものの、結果的に社内チームのプランが採用される場合もありますよ。
なるほど。
自分たちにノウハウや知恵がストックされていくという考え方もできますね。
「Implementation 戦術実施」
実行するマーケティング戦術が決まったら、それを速やかに実施する段階に入ります。
マーケティング戦術の実施において重要なのは「プロジェクトマネージメント」です。こちらでは「プロジェクトマネージメント」の考え方と「進捗管理方法」について、かんたんに解説します。
「プロジェクトマネージメント」
プロジェクトマネージメントは「納期が決められているプロジェクトを成功させるための計画を立案し、プロジェクトの成果物の品質とプロジェクトの進捗管理していくことです。
一般的にはプロジェクト全体を統括する「プロジェクトマネージャー」がプロジェクトマネージメントを実行していきます。
「プロジェクトマネージメントの運用」
- 実施体制
プロジェクトマネージャーの配下に複数のタスクチームを配置し、プロジェクトマネージャーと各タスクマネージャーが連携しながら、成果物の品質管理や進捗管理を実施していきます。 - ToDo
プロジェクト全体および各タスクの必要な実施項目、内容、担当者、実施目標、完了期限を明確にし、定例ミーティングで各々の進捗内容をチェックします。 - スケジュール
ToDoをベースに、各々の実施項目の完了期限までの進行計画を全体、月次(マンスリー)、週次(ウィークリー)、日次(デイリー)レベルまで落とし込み、定例ミーティングで各々の進捗内容をチェックします。
スケジュールには「中間目標」も設定しましょう。
スケジュールの遅延や、想定外の事態が起こっても、中間目標を設定しておくことで、フレキシブルな調整や立て直しが可能になります。 - 中間報告・見直し
経営層、スポンサー、クライアントなどに対して、プロジェクトの要所要所で進捗状況や達成した成果または問題点、改善提案などに向けを報告・共有します。
プロジェクトの成果次第では追加施策を実施したり、逆に実施規模を縮小させたりと見直しを実施することもあります。 - 成果評価
プロジェクトの終了に向けて、プロジェクトの成果や反省点、今後に向けた活動の示唆などを評価します。
評価方法は次の「Control 戦術管理、KPI設定と評価」で解説させていただきます。 - 最終報告
プロジェクトの全行程が終了した段階で、経営層、スポンサー、クライアントなどに対して、プロジェクトの最終報告を実施します。
プロジェクトの成果、反省点、今後に向けた活動の示唆などの報告します。
プロジェクトは立ち上げる前も大変ですが、立ち上げたプロジェクトを実施・完了させることも相当大変ですね。
そうですね。
だからこそ、しっかりとしたプロジェクトの組織体制を整備し、メンバー全員の協力を得ながら進めていかないといけませんね。
「Control 戦術管理、成果評価」
こちらではマーケティング戦術の効果や結果を科学的に測定し、客観的に評価する方法について解説します。
具体的には、マーケティング戦術を実施した結果、「設定した課題や目標がどの程度達成されたのか」、あわせて「最初に想定した成果以外に副産物的な成果が得られることはあったのか」と成果のプラス面を明らかにします。
あわせて「問題点とその原因、反省点、今後に向けた活動の示唆」など、成果のマイナス面も明らかにします。
まず成果の評価指標について解説します。
ここでは「KGI」と「KPI」の2つを学習しましょう。
- 「KGI(Key Goal Indicator)」
KGIは「重要目標達成指標」で、売上額や利益額などのプロジェクトの最終目標(ゴール)を示します。 - 「KPI(Key Performance Indicator)」
KPIは「重要業績評価指標」で、プロジェクトの最終目標(KGIですね)の達成度合いを評価する指標です。
「KGI」を売上額と利益額で設定している場合、「KPI」はECサイト流入数などの集客数(売上や利益を構成する集客の指標)や、CVR(コンバージョンレート:売上や利益の獲得効率の指標)、購入数、単価、利益率(売上額と利益額に直結する指標)などとなることが一般的です。
「KGI」と「KPI」を設定する際の注意点
まず、「KGI」と「KPI」はともに「継続的に測定可能な定量的な指標」を選択しましょう。
また、「シンプルで分かりやすい指標」であることや、「公平性や透明性が担保されている指標」であることも重要です。
「KGI」と「KPI」の活用するメリット
「KGI」と「KPI」を戦術管理に活用するメリットは、組織やチームの意識統一を図ることが容易になるとともに、目標達成の進み具合が可視化されてプロジェクト全体の舵取りや個々のタスクのマネージメントに大きく役立つことが挙げられます。
「目標設定について」
「KGI」は経営戦略上、営業やマーケティング部門が担う事業計画から売上額や利益額として数値設定されることが多いと思います。
あくまで現実的な目標を設定することが原則ですが、様々な経営現場においては、簡単に達成できるような目標ではなく、少しストレッチ(背伸びした)な目標を設定することが求められるようになってきているのではないでしょうか。
これは努力目標とも言われています。
あくまで例ですが、経験的には、努力目標の値は現実的な達成レベルに対して20%~40%程度上乗せするような場合が多いのではと思います。
「KPI」は前段で設定された「KGI」の目標値をベースに「集客数」「成果達成の割合」「販売単価」「販売数」「利益率」などをブレイクダウンしながら各々の目標数値を設定していきます。
「KPI」もストレッチした目標数値となるので、それを達成するためにマーケティング施策のチューニングがマーケティング予算と相談しながら検討されたりもします。
「評価の内容について」
「KGI」「KPI」ともに、施策のスケジュールを踏まえながら、目標数値の達成率(進捗率)を計測します。
あわせて、その達成状況の背景(理由・原因)についても可視化していきます。
具体的には、マーケティング施策の進行とあわせて以下の調査を実施して、「KPI」の達成に貢献している現象や事象、または「KPI」の達成のボトルネックとなっている現象や事象をあぶり出します。
マーケティング施策の進行とあわせて実施すべき調査
- マーケティング施策の認知や意識、購買行動などの定量調査
- 購買接点(ECサイト・店頭)のトラッキングや観察調査
- 販売代理店や営業スタッフへのインタビュー調査
- インナー(社内)のモチベーションや施策参加状況の調査
これらを実施することで「マーケティング施策がどの程度浸透しているのか」「KPIの達成/未達成の原因究明」「マーケティング施策によって、組織が獲得したケイパビリティや新たな課題」について把握することが可能となります。
各種調査の実施の目安としては「マーケティング施策実施の事前、中間、事後」が望ましいでしょう。
なるほど、マーケティング戦術に対するフィードバックですね。
そうですね。
実施したマーケティング戦術の結果も重要ですが、「その原因(なぜそうなったのか)」「そこからどんな経験(成果/反省)をしたのか」を客観的に受け止めることが重要だろうと思います。
「Feedback ノウハウのフィードバック」
ここからはマーケティング戦術の結果を測定・評価して可視化したノウハウや成果を、どのように扱っていくべきかについて解説していきます。
まずはフィードバック。
フィードバックの対象は大きく以下の2つとなります。
「フィードバック」2つの対象
- 社内
獲得したノウハウや成果に関する具体的かつ詳細な情報を、経営層、プロジェクト関係者、全社員を対象にフィードバックしましょう。
フィードバックの目的は、実施したマーケティング活動の協力への御礼、結果報告、理解獲得、今後の協力獲得などです。
企業の人材、予算、設備などを使って実施した活動ですから、客観性や透明性の高いフィードバックが必要となります。
また、報告する情報は報告の対象別にチューニングが必要になることもあります。
得に経営秘匿事項などは経営層限定、社員向けの情報も社内限定にするなどの、情報セキュリティ管理が求められることが多いでしょう。
<社内向けのフィードバック方法>
・「報告会」
・「説明会」
・「イントラサイトや社内報」 - パートナー、メディア
マーケティング活動に協力してもらった社外のパートナーやメディアに対してもフィードバックが必要です。
フィードバックの目的は、社内と同様で、実施したマーケティング活動の協力への御礼、結果報告、理解獲得、今後の協力獲得などですが、発信する情報は対象が社外であり、情報が独り歩きすることを前提にチューニングする必要があります。
<パートナー・メディア向けのフィードバック方法>
・「キーマン向け報告会」
・「代理店など向け説明会」
・「サンクスレター」
・「ニュースリリース」
中でも「ニュースリリース」は、社会全体へのフィードバックとあわせて、ネクストステップを睨んだ文脈で話題づくりをしていくなど、広報・PR上の様々な工夫を盛り込むことが可能です。 マーケティング活動は「実行して終わりというモノではなく、未来に向けて継続していく」という姿勢と取り組みの事実を発信していくことが重要です。
なるほど、次の展開も含めて考えて実行していくということですね。
「Effective Use ノウハウの有効活用」
フィードバックの次はノウハウの活用です。
まさに「実行して終わり」ではなく、獲得したノウハウを有効活用して、永続的にメリットを享受するための考え方と方法です。
ここで言う「ノウハウ」とは「商品そのもの」であったり「サイトや店頭などでの売り方や演出方法」「商品や広告のクリエーティブ」そして「コンテンツ」などでヒットしたり成功したモノを指します。
以下にかんたんに解説します。
ノウハウの有効活用例
- 商品そのもの
商品のネーミングやパッケージをリニューアルし「別な見え方」をつくって販売したり別な用途で活用したりすることが考えられます。
・復刻版やリバイバル商品として再登場させる。
・企業の周年事業の記念品として活用する。
・少量パッケージを用意して、景品やノベルティとして活用する。 - 販売方法・演出
売り方そのもの、サイトや店頭の見せ方もノウハウです。
「お買い物の楽しさを演出するデジタル&リアルのシェルフ陳列」や「スマートなショッピングスタイルを提案するライブコマースやキャッシュレス決済」などは企業の独自性をアピールする注目度の高いジャンルでもあります。
・他の販売業態で、その売り方が流用できないか検討してみる。
・異業種の販売方法として活用できないか検討してみる。
・他の商品とクロスセルで販売する「テーマ」「シェルフ」を検討してみる。 - クリエーティブ
広告表現などのクリエーティブも独自のノウハウとして大いに活用できます。
・広告表現やキャラクターなどをシリーズ広告として継続させ、次のマーケティ
ング戦術に活用する。
・既存の広告フレームから新たなストーリーを派生させ、別商品のスピンアウト
企画として活用する。
・広告の世界観から新たなシナリオとして異業種商品とのコラボ企画(派生商品
の開発やセット販売など)を検討する。 - コンテンツ
コンテンツの使い方やコンテンツづくりの工夫も独自のノウハウです。
コンテンツはストック型資産としてマーケティング活動に長く貢献しますので、積極的に活用していくべきでしょう。
・商品CMやイベントコンテンツなどとあわせて「商品の開発秘話」「ここだけ
のおもしろい話」「感動ストーリー」などを盛り込んだ「コンプリートコンテ
ンツ集」として展開する。
・既存のコンテンツをルーツに新たなストーリーを展開させ、新しいライフスタ
イル提案などのシリーズとして展開し、新商品のマーケティングにつなげる。
なるほど、ノウハウを活用し続けていくと「商品の独自の世界観」が拡がっていきますね。
そうですね。
ブランディングにも有効ですね。
マーケティングは息の長い取り組みだってことがよくわかりました。
まとめ
ここまで長いことお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
マーケティングの進め方について実務的観点から16の実施項目に分けて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
マーケティング実務の具体的な実施内容についてイメージできたのですが、これ、全部やらないといけませんかね?
いえいえ、そんなことはありません。
ケースバイケースです。
課題や扱う商品、市場やターゲットによってマーケティングの進め方についても対応をフレキシブルに変えていくことはよくあります。
適切な実施項目を選択し組み合わせて効率的かつスピーディにマーケティングを進めることを求められることはよくあります。
しかし、必要であろうマーケティングの実施項目について、知っていて行動しているのか、知らないで行動しているのかでは、アウトプットに大きな差が出てしまいます。
さらに、これからニューノーマルに対応していくためには、マーケティングそのものにも用意周到な準備が必要であろうと思います。
今回の記事でご紹介したマーケティングの進め方とその実施項目を、あなたのマーケティングプランニングの引き出しにストックしていただき、臨機応変に取捨選択しながら使いこなしていただけるとうれしいです。
よくわかりました。
今後の連載では今回紹介した16のマーケティングの実施項目それぞれにフォーカスして、現場や実務でより役立つ情報としてまとめていきたいと思います
ももとらサロンでは起業や副業に役立つマーケティングのノウハウや事例などをどんどん発信していきます。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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